2019年10月に楽天が携帯電話事業のサービスを開始する。
これが成功すれば、ドコモ・au・ソフトバンクに次ぐ「第4のキャリア」の誕生になり、長年続いていた大手3社による寡占状態が崩れるかもしれない。
楽天は現在「楽天モバイル」という格安スマホで支持を得ており、10月のサービス開始後も現在の料金プランで提供する予定としている。そのため、楽天の参入により、激しい価格競争が生まれ高止まりする携帯料金が安くなる可能性がある。
その一方で設備投資にかける金額が低すぎるという指摘もあり、楽天の新規参入には不安も多い。果たして楽天に勝機はあるのだろうか。
楽天が携帯電話事業に参入する理由
なぜ、楽天が携帯電話事業に参入しようとしているのか。
そこには、
- ソフトバンク
- ヤフー
- アマゾン
という3つのライバルが関係している。
ヤフーは楽天と同様にECサイトを運営しているが、ソフトバンクと提携してソフトバンクのユーザーのみポイント10倍にするというサービスを打ち出している。この効果により楽天から顧客を奪い始めている。
楽天も楽天モバイルのユーザーはポイントを優遇するという制度を導入しているが、それだけでは十分ではない。
なぜなら楽天モバイルの契約回線合計数は
約120万人であるのに対して、
ソフトバンクは約3900万人である。
そもそも対象となるユーザー数に大きな差があるのだ。
さらに、ECサイトを頻繁に利用してくれるユーザーは大容量プランを好むユーザが多く、楽天モバイルのユーザーが大手キャリアに流れてしまう可能性が高い。
この流れが強まると、楽天市場と楽天モバイルの利用者が減少し、ひいては楽天の業績悪化に繋がり兼ねない。そこで携帯電話事業に参入して楽天経済圏を構築し収益基盤を強化しようというわけだ。
もう一つ、アマゾンとの関係はだが、これにはやはりECサイトとしてのシェア争いがある。
日本貿易振興機構が発表したデータによると、日本のEC市場のシェアは
1位がアマゾンで20.2%
2位が楽天で20.1%
となっている。
0.1%差と拮抗しているとはいえ、楽天はアマゾンに負けているのだ。ECは楽天の主力分野であるだけに、アマゾンにシェアを奪われるのはかなりの痛手である。今後はこの流れはさらに加速する可能性もある。
EC強化のためにも、携帯電話事業に参入し連携を高めるという狙いがあると思われる。
楽天の携帯電話事業の成功は非常に困難
このように楽天は携帯電話事業に参入するわけだが、その道程は容易ではないだろう。
14年前、第4のキャリアとしてイーモバイルが新規参入をしたことがあった。しかし、イーモバイルは大手3社に並ぶ事はできず、結局ソフトバンクに買収されてしまったのだ。
当時の携帯電話市場は現在とは違い、拡大期であったたにもかかわらずユーザーを増やすこといができなかったのである。成熟期に入った現在の携帯市場でユーザーを確保するのはいっそう容易なことではないだろう。
さらに、全国規模で通信網を構築するためには莫大な初期設備投資が必要とされており、楽天は2025年までに
「約6000億円を設備投資に費やす」
と計画している。
しかし、これは大手キャリアの設備投資額のわずか6分の1ほどでしかなく、大手3社並の高品質な通信サービスを提供するのは非常に困難だと考えられている。
また、東京都内などではアンテナの設置場所ほとんど残っていないという問題もある。サービス開始までの短期間で設置場所を確保するのは時間的に厳しいとみられている。
このような状況から楽天が他社よりも低価格を打ち出したり、楽天ポイントなど独自サービスを提供しても、
カバーエリアの狭さ
通信品質の低さ
という問題が解決されない限りユーザー確保が困難になるだろう。
楽天が目指す他社と一線を画く通信設備
楽天は、2019年10月に4Gでのサービスを開始する。その時点の自社設備でのサービス提供エリアは
東京23区
名古屋市
大阪市
が中心となり、それ以外の地域についてはauのネットワークを利用するローミングでカバーする。
そして楽天は世界初となる新技術で他社と差別化を図ろうとそている。
新技術というのはネットワーク設備におけるソフトウェア部分をか完全仮想化する技術のことであり、楽天はこれを世界初の
「クラウドネイティブネットワーク」
と呼んでいる。
この仮想化技術により大幅な設備投資額の削減を見込んでおり、当初の6000億円をさらに下回る投資額を実現できるとしているのだ。
そもそもこの仮想化技術は5Gでの利用が前提になっており、4Gネットワーク構築の時点で仮想化技術を取り入れることで、スムーズにかつ低コストで5Gに移行できるメリットがある。
こうした取り組みはゼロからネットワークを構築する楽天ならではのものとして、世界的に注目されているのです。
携帯電話事業の参入で楽天に勝機はあるか
現在の楽天モバイルはワイモバイルなどの大手キャリアのサブブランドを強く意識した料金プランを提供している。そして総務省が公開した資料によると、10月のキャリア参入後も「現在のMVNOで提供中の料金プランで提供予定」としている。
そうなると、大手キャリアのサブブランドとの価格競争が激化すると予測される。
特に、
ヤフーとの連携を強めるワイモバイル
楽天市場との連携を図る楽天
と両者は同様の戦略であるため激しい競争となるだろう。
それでも楽天にはサブブランドと近い料金プランで大手キャリア並の高品質な通信サービスを提供できるという強みがある。
一方で大手キャリとは戦略や対象とするユーザーの違いがあるため、直接的な競争は起きないと考えられる。それでも、楽天の低価格で高品質な通信サービスによりMVNOのサービス向上につながれば、楽天だけではなく、MVNO全体へのユーザー流出で3大キャリアは影響を受ける可能性がある。
特に、
ソフトバンクは「ワイモバイル」
auは「UQモバイル 」
という自社の格安ブランドを保有しているのに対してドコモは自社では格安ブランドを保有していないため、もし上記のように楽天が低価格で高品質な通信を実現すると大規模なユーザーの流出を許してしまうかもしれない。