ITの世界は非常に流れが速く、最新のテクノロジーがすぐに古くなってしまう世界です。そんな中で、直近の最新テクノロジートレンドの1つがクラウドコンピューティングです。クラウド上にデータを保存して、処理を行うことで、大量のデータを効率的に処理できるようになりました。GoogleDrive、AWS、Dropboxなどが代表的なサービスで、多くの企業に採用されたことにより、今や当たり前のものになってきました。
しかし、クラウドコンピューティングはインターネットの通信を必須とするため、処理に時間がかかってしまいます。IoTが普及していくこれからの世界ではラグのない超高速な処理が必要とされています。
クラウドコンピューティングでこのようなラグのない超高速なリアルタイム処理を行うのは通信を介するため難しいとされています。そこで注目されているのがエッジコンピューティングです。エッジコンピューティングは現在のクラウドの課題を解決してくれる可能性を秘めた重要な技術です。
エッジコンピューティングとは何か、メリット、活用事例を紹介していきます。
5G時代のエッジコンピューティングとは?
エッジコンピューティングとは、スマートフォンやスマートスピーカーなどのインターネットに接続される様々なIoT機器で情報を処理したり、利用者に近いエリアにサーバーを分散設置して処理を行うことで、高速な処理を実現するコンピューティング秘術です。コンピューティングを行う場所が端末側(エッジ)であることからエッジコンピューティングと呼ばれています。
クラウドコンピューティングが、集約されたサーバに情報を集中して処理する「集中処理型」であることに対して、エッジコンピューティングは、ネットワークの端末(エッジ)機器で情報を処理したり、ネットワーク上ににサーバを分散配置して処理を行ったりする「分散処理型」になります。
アメリカの調査会社「ガートナー」はエッジコンピューティングを「データの生成元、または、その近くでのデータ処理を容易にするソリューション」と定義しています。スマホなどのIoT機器が作り出したデータを遠くのクラウドに送るのではなく、データを生成したデバイス内または付近のサーバーで処理を行い、高速かつ効率的なデータの処理・活用を可能にします。
現在、急速に普及しているIoTテクノロジーとモバイルコンピューティングをインターネットに依存すること無く可能にしてくれます。インターネットに依存しないことは非常に重要で、通信インフラへの負担を減らすことに加え、自動運転車の機能が電波の強弱によって左右されてしまうという命にかかわるような問題の解決にも繋がります。
エッジコンピューティングが注目される理由
IoTの普及
今、エッジコンピューティングが注目されている最大の理由はIoTの普及です。IoTの普及に伴うデータの量の急速な増大と低遅延の通信が求められるようなサービスやアプリケーションの利用拡大によりエッジコンピューティングが求められるようになっています。
たとえば、自動運転車やコネクテッドカーでは自動車に搭載されているカメラやセンサーから取得した周囲のデータを瞬時に認識・処理しなければなりません。そうでなければ完全で安全な自動運転を実現することは不可能だからです。
このような処理にはクラウドではなくエッジコンピューティングが不可欠です。他にも数ミリ秒単位での制御が必要な工場の製造ライン上の機械制御にもエッジコンピューティングは欠かせません。
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エッジデバイスの高性能化
さらにエッジ側のデバイスに搭載されるセンサーやデータ処理用のチップの高性能化・小型化・省電力化もエッジコンピューティングが普及している要因といえます。クラウド用のサーバーに比べ制約の大きいデバイス側でも省電力で高度な処理ができるものが登場しています。
5Gの始動
また5Gもエッジコンピューティングの発展に大きく関与しています。5Gは最大10Gbpsでの「超高速・大容量通信」1km2あたり100万台の「同時多数接続」1ミリ秒程度の「超低遅延」という特徴により、エッジコンピューティングと非常に高い親和性を発揮します。
5Gを利用して携帯キャリア各社は基地局の近くにサーバーを設置することで、低遅延化しながらスマホでの処理負担を減らすことができる「モバイルエッジコンピューティング」(MEC)を計画しています。
GDPRなどのデータ保護規制の強化
ヨーロッパで2018年から始まったデータ保護規則GDPRに代表されるように、世界的にデータに対する法規制が強化されています。そのためには端末内のデータをクラウドで処理せずに端末内に留めることができる、エッジコンピューティングが重要な役割を担います。
エッジコンピューティングのメリット
ラグの無いリアルタイム処理
エッジコンピューティングではすべてのデータをクラウドに送るのではなく、端末(エッジ)側で行える処理はエッジで行い、それ以外のデータをクラウドに送ることで処理を高速化します。クラウドに送信するデータを少なくする、あるいはゼロにできるため、インターネット通信による遅延や待機時間を短縮し、素早い処理と応答を実現できます。これがエッジコンピューティングの最大のメリットであり、様々なフローを効率的かつ安全に実行できるようになります。
持続可能性の担保
クラウドコンピューティングの場合は安定したインターネット環境が必須です。会社のデータ運用を完全にクラウドに依存していると、通信障害やデータセンターの故障によって全くデータが取り扱えなくなり、業務に大きな支障を出してしまう可能性があります。しかし、エッジコンピューティングを導入しておけば、ネットワーク環境がたとえ不安定な状態になっても安定的にオペレーションを実行できます。このように業務の持続可能性を担保するのにも役立ちます。
セキュリティーの強化
IoTに関する懸念の1つとしてクラウドへのデータ送信時や、保存されているデータベースへのサイバー攻撃などにより機密データや個人データが漏洩してしまうことが挙げられますが、エッジコンピューティングであればこれらを未然に防げます。
また、最近では「GAFA」のような巨大IT企業にデータが集中してしまうことの懸念からできる限りクラウドではなくエッジでデータを処理したいという需要が高まっていることもありセキュリティーの強化は大きなメリットになると言えるでしょう。
低コスト化
クラウドで膨大な量のデータを処理しようとすると、莫大な通信費が発生してしまいます。もちろん高度な処理を実現できるのは良いことですが、継続的に高いコストをかけ続けるのが難しい場合も多いでしょう。エッジで処理することにより通信コストを節約できます。
エッジコンピューティングと5Gが実現する社会
高品質なAR/VR
高品質なAR(拡張現実)やVR(仮想現実)の実現には素早いレスポンスが重要です。VRで現実感があり投入感の高い体験を得るにはできる限り遅延がないなめらかな映像が必要ですし、ARで現実とリンクした体験をするのにも低遅延な通信が不可欠です。
送受信するデータを減らすことができるエッジコンピューティングは、通信速度を向上させるため、5Gと合わせて高品質なAR/VRの実現に大きな役割を果たすでしょう。
完全自動運転
完全な自動運転を実現するには膨大な量のデータを安定的に送受信する環境とエッジである自動車での高度な処理は不可欠です。
トヨタよると2025年には自動運転車とクラウドでのデータ通信量は115エクサバイトにも上ると試算されています。1エクサバイトは100万テラバイトにあたるためその通信量がどれほど膨大かがわかるでしょう。
これほどのデータを安定的に通信して完全自動運転を実現するには5Gだけではなくとエッジコンピューティングの進化が重要だと言われています。
高速で高度なスマートスピーカー
スマートスピーカにより身近にAIを利用できる機会が増えて来ましたが、これらのAI処理はほとんどクラウドで行なわれています。そのため上記で述べてきたように、スピーカに話しかけてから処理し、応答があるまで時間がかかり、完全に人間と話しているような体験は味わえません。
そこで、エッジコンピューティングの出番です。スマートスピーカ自体にAI処理のチップが搭載されれば、リアルタイムに応答してくれるため、まるで本物の人間と会話しているかのような体験をすることが期待できます。
エッジコンピューティンングのデメリット
設備投資によるコスト増加
メリットの項目でコスト低下を上げましたが、場合によっては設備投資によるコスト増加は避けて通れません。
エッジコンピューティングを利用できる環境を整備するためには、サーバーなどの設備投資はもちろん、維持管理といったランニングコストも発生してしまいます。クラウドコンピューティングのみを利用する場合、あるいは両方を利用する場合などと比較してコストが増加するのか減少するのかを見極めることが重要です。
デバイスの消費電力増加
エッジ側で処理を行うことは当然ながら、その分消費電力が増加します。スマートフォンなどの小型でバッテリー駆動しているデバイスだと消費電力が増加してしまうことは、高速な処理ができるとはいえ、歓迎できることではありません。そのため、処理能力だけではなく、どれだけ低消費電力化できるかも大切になってきます。
5G時代はクラウドコンピューティングとエッジコンピューティングの融合がカギ
ここまで、エッジコンピューティングのメリット、デメリット、活用事例などを紹介してきました。ここ数年のトレンドであるクラウドコンピューティングとは対局的な技術や考え方であるように思えたかもしれませんが、実際にはそれぞれの欠点を補完しあうとても相性の良い技術になります。
クラウドコンピューティングは大量のデータを高度に処理できるが、時間がかかる。エッジコンピューティングは高速に処理できるが、処理能力ではクラウドに劣る。そこでクラウドとエッジを組み合わせて利用することで大量のデータを高速かつ高度に処理することができるようになります。
そのためこれからの5G時代は「クラウド+エッジ」によるデータ活用が進んで行くことになるでしょう。