今年、Wi-Fiの規格が10年ぶりに一新されます。2019年1月に次世代無線LAN規格Wi-Fi6が登場したからです。ではこのWi-Fi6、どこが進化したのでしょうか。もちろん通信速度は向上しましたが、それだけではありません。様々な最新技術を取り入れて5G時代に対応した、次世代の無線LAN規格になります。
さらにWi-Fi6以外にもWPA3とEnhanced Openという無線LAN通信を変える新規格が登場しています。
これらにどのような最新技術が使われているのか、ルーターはどうするのか、生活がどう変化するのか、などここで理解しておきましょう。
Wi-Fi6までの規格の進化
Wi-Fiの通信規格はアメリカに本社を置くIEEE(アイ・トリプルイー:米国電子電気学会)という団体が「IEEE 802.11」という無線LAN規格として策定しています。802.11が「無線LAN」という意味を表していて、802.11の後の、a、n、acなどのアルファベットで世代ごとに規格を区別しています。
Wi-Fiが最初に登場したのは1997年のことで、当時の伝送速度は2Mbpsでした。その後、1999年に発表された802.11bで11Mbpsまで速度が向上し、Wi-Fiが普及することになりました。そして2003年に802.11bの上位互換として登場した、802.11gで54Mbpsの伝送速度を達成しました。これはOFDM(直交周波数分割多重方式)という技術を利用して実現しています。
2009年になると、これまでの2.4GHに加えて、5GHzの周波数帯域を利用して、600Mbps以上の最大転送速度を実現する「802.11n」(Wi-Fi4)という規格が登場します。
802.11nでは複数のアンテナで送受信を行うMIMO (Multiple Input Multiple Output)や複数の通信チャネルを結合するチャネルボルディングにより、高速化と安定化を実現します。
そして、2014年に現在最も利用されている規格である802.11ac(Wi-Fi 5)が登場しました。802.11acではチャネルボルディングの高度化とMIMOを発展させたMU- MIMO、256QAMにより1733Mbps という転送速度を達成しました。
1997年の登場からわずか20年間で、Wi-Fiの転送速度は約866倍にまで高速化を果たしたのです。
Wi-Fi6の特徴 5Gに対応して進化
Wi-Fi AllianceによるとWi-Fi6の特徴は以下のものです。
- 高いデータレート
- 容量の向上
- 数多くのコネクテッド デバイスが存在する環境での優れたパフォーマンス
- 省エネ性の向上
Wi-Fi6は正式名称を「802.11ax」と言います。その最大の特徴は実行速度の向上です。Wi-Fiの通信速度には理論値と実行速度の2つがあります。理論値はその名の通り理論上の最大速度で、実行速度は実際に行える最大の通信速度になります。別名、実行スループットとも呼ばれます。
現在主流の802.11acは理論値上の最大速度は6.9Gbpsですが、実行速度はせいぜい800Mbpsと言われています。Wi-Fi6では理論値は9.6Gbpsと802.11acの1.4倍程度ですが、実行速度は少なくとも4倍にまで向上するとしています。この実行速度を生かしてWi-Fi6では8K動画のストリーミングも可能になります。これがWi-Fi6の最大の特徴です。
このようにWi-Fi6 は5Gの「超高速」「大容量」などの特徴に対応する形で進化した通信規格なのです。
さらに、Wi-Fi6には以下のような様々な技術の導入により速度の向上以外にも多くの進化点があります。
MU-MIMO
Wi-Fi6ではWi-Fi5と同様にMU-MIMO(マルチユーザーMIMO)という技術に対応しています。MU-MIMOは複数のアンテナを利用してデータを送受信するMIMOをさらに発展させて、複数の端末に同時にデータを送受信することができるようにした技術です。
Wi-Fi5との違いは「指向性を持つアンテナを利用して特定の端末に向けて電波を飛ばすことで、電波干渉を減らして通信を高速化することができるビームフォーミングの対応数が最大4台から8台にまで増えたことです。
これまでよりもさらに多数の端末をWi-Fiに接続しても速度が落ちにくくなったということです。
OFDMA
Wi-Fi5で利用されているOFDM(直交周波数分割多重方式)をチャネル帯域幅をより細かなサブチャネルに分割することでより多数の端末との接続を可能にしたものがOFDMAです。
元々、モバイル向け4G通信で利用されていた技術で、同じチャネル帯域幅でより多くの端末が利用できるようになります。
TWT(ターゲットウェイクタイム)
Wi-Fiに接続される機器にはスマホなど、バッテリー駆動しているものが多い。Wi-Fi接続はバッテリーを消費しやすいので、必要なときのみ通信して、バッテリーを節約する必要があります。
そこでWi-Fi6では「TWT」という機能が取り入れられている。TWTはWi-Fiルータとスマホなどの通信端末との通信をあらかじめ決めておいたタイミングのみ行うことです。これは先述したように通信端末のバッテリー消費面で有利になるだけではなく、無駄な通信を省くことで、通信帯域配分の最適化という面でも有利になります。
トリガーフレーム
Wi-Fi6では複数端末での同時通信をより効率化・安定化させるために、新たにトリガーフレームという技術が導入されています。
トリガーフレームではWi-Fiルータの指示に応じて、接続されている端末が最大送信出力などの様々な情報をルーター側に送信します。これにより、遠くにある端末には高い出力で送信するなど、端末までの距離に応じて適切な出力で送信することができます。
情報は1つの端末だけではなく、同時に複数の端末から送信することもできます。順番に情報を送信する場合に比べて遅延が少ないのもトリガーフレームの特徴です。
Wi-Fiと無線LANを変えるその他の新規格
WPA3
Wi-Fi6に限ったことではありませんが、今後のWi-FiにはWPA3という新たなセキュリティープロトコルが取り入れられます。WPAでは無線LANアクセスポイントがデバイスの接続を許可する「認証」と接続された後にデバイスとの通信を保護するための「暗号化」が定められています。
WPA3で最も特徴的なのはWPA2では有効な攻撃手段である辞書/総当たり攻撃を不可能にすることができる点です。さらに推奨されている文字数や複雑さを満たさないパスワードであってもWPA2よりも高いセキュリティーを誇ります。
これはSAE(Simultaneous Authentication of Equals)という認証時の鍵確立プロトコルにより実現されています。さらに、たとえパスワードが漏洩したり解読されても過去に行われた通信の暗号を解読できないようになっています。
Wi-Fiアライアンスのマーケティング担当バイスプレジデント、ケビン・ロビンソン氏は「WPA3は2019年後半には多くのデバイスが対応するのではないか」という見込みを示しています。また、ほとんどの機能をソフトウェアベースで導入できるため、既存製品にもWPA3 に対応する製品が出てくる可能性もあります。
Enhanced Open
Enhanced Openは正式名称「Wi-Fi CERTIFIED Enhanced Open」と言って、公衆無線LANなど正式に認証されていないWi-Fi用のセキュリティー規格です。
コンビニや駅などで提供されている現在の公衆無線LANはWPA2などのセキュリティー規格を適用していない「オープンWi-Fi」がほとんどです。オープンWi-Fiにはユーザーがパスワードを入力すること無くアクセスポイントに接続することができるという高い利便性がありますが、通信が暗号化されていないので内容を盗聴される危険性があります。
Enhanced Openはパスワード無しの利便性を維持しつつも、通信を暗号化した安全な通信を提供してくれます。導入も簡単で、Wi-Fiアライアンスによるとキャプティブポータルをすでに導入しているオープンWi-Fiであれば、認証サーバーなどを追加すること無くセキュアな通信を実現できるとしています。
Wi-Fi6対応のルーター・スマホ
Wi- Fi6対応のルーター
現時点で国内発売されているWi-Fi6対応ルーターはほとんどありませんが、すでにWi-Fi6対応を歌ったルータも発売されています。
今回は現時点で国内発売されているルーターを3機種紹介します。
ASUS「RT-AX88U」
国内初のWi- Fi6対応ルーター。802.11axの5GHz帯で4804Mbps、2.4GHz帯で1148Mbpsの通信速度を実現します。既存の11ac、11nにも対応していて、それぞれ通信速度は4333Mbps、1000Mbpsとなっています。
特徴的な機能としてゲーマー・プライベート・ネットワーク(GPN)があり、最適な通信経路を確保する「wtfast」が内蔵されています。その他、パッケット割においてゲームパケットを優先する「Adaptive Qos」、ビームフォ-ミング技術の「AiRadar」、トレンドマイクロの技術を利用したセキュリティー機能「AiProtection」などを搭載しています。
ネットギア 「Nighthawk AX8 RAX80-100JPS」
1024QAMや4×4MU-MIMOに対応し、5GHz帯で4800Mbps、2.4GHz 帯で1200Mbpsの最大通信速度を実現しています。
特徴はルーター本体の左右に伸びた羽のような形状をしたアンテナ部分で、左右にそれぞれ2本ずつアンテナが内蔵されています。ネットギアジャパンによると、この構造は「ネットギアの無線通信に関する長年の豊かな経験や知見に基づいて11axの性能を最大限に発揮できるようにこだわってアンテナの角度や配置を変えたもの」だと言います。
これにより他のWi- Fiルーターのように角度を変える必要が一切ないことが「Nighthawk AX8 RAX80-100JPS」の新しい特徴と言えます。
NEC 「BL1000HW」(auひかり向け)
2018年2月に発表されたインターネット接続サービス「auひかりホーム10ギガ」「auひかりホーム5ギガ」と同時に提供開始されたWi-Fiルーターです。
802.11ax対応していて、5GHz帯で最大2401Mbps、2.4GHz帯で最大1147Mbpsの通速度で通信できます。
auひかり向けのホームゲートウェイとして提供されているため、一般に市販はされていません。
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Wi-Fi6対応のスマホ
Iphoneは最新のXsやXsMaxでもWi-Fi6には対応していません。また、現状のところApple製品でWi-Fi6対応している製品はありません。
Appleは基本的に最新の通信規格に対応するのが遅いので今年発売されるであろう最新機種でも対応するかは微妙なところです。5Gへの対応も他社よりも遅れると見られています。
Androidスマートフォンは米クアルコムのSnapdragon855というSOC(システム・オン・チップ)が搭載されていればWi-Fi6に対応することが可能です。
代表的な機種としてはGalaxy S10・S10plus、Xperia 1などがあります。ただ、Snapdragon855を搭載していてもWi-Fi6に対応しているかは機種によって異なるので確認が必要です。
Wi-Fi6は5G時代に重要な技術
現在でもWi-Fiにそこまで不満を感じている人はいないかもしれません。しかし、5G時代の到来に伴い、これからモバイル通信の体験は大きく変化していきます。
Wi-Fi6やWPA3はこうした5G時代に対応した新たなワイヤレス通信の規格として重要な存在になるでしょう。
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