昨今、VR、AR、MRなどの「~R」という名称の技術が注目を集めています。これらの技術は総称してXR(~現実)と呼ばれています。
VR、AR、MRはすべて共通に「R」が使われています。このRはReality(現実感)という意味で、要するに何らかの形で現実世界がテクノロジと融合することで、人々に新たな感覚や体験をもたらすことができる技術です。ただ、それぞれなにが違うのかわからないという人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、VR、AR、MRをそれぞれ解説して、違いや活用事例、さらに今後どのように進化していくのかまで紹介していきます。
VRとは
VRは「Virtual Reality/バーチャル・リアリティー」の略で、日本語では一般的に「仮想現実」と呼ばれる技術です。
一言で表すと「コンピュータや撮影した映像で現実世界のような仮想現実を作り出して、あたかもそこに物体が存在したり、自分そのものがその場にいるかのような感覚を体験できる技術です。」
要するに「実際に体験している」「本当にその場にいる」という感覚を体験できるのがVRです。
専用のゴーグルを使用して、CGや360度カメラなどの映像をディスプレイに映し出すことで360度・全周囲映像を体験することができます。「PlayStation」に接続して利用する「PSVR」やパソコンに接続して利用する「PCVR」、スマートフォンを取り付けて利用するサムスンの「Gear VR」などゴーグルにも様々な種類が存在します。
最近では、「Oculus Go」のようにPCやスマホを必要とせずVRゴーグル単体で動作するゴーグルも登場していてVRが手軽に体験出来るようになってきています。
ちなみに、仮想と訳されていますが、「Virtual」の本来の訳は仮想ではなく、「事実上は」「実質上は」ですし、Realityは「現実感」なので「実質現実感」あるいは「人工現実感」などの訳が適切だと言えるでしょう。
VRの活用事例
「ゲーム」
現在、VRが最も利用されているのがゲーム分野です。 日本では対応ゲームが少ないことからあまり普及していないですが、世界では急成長を遂げている市場です。
リサーチ会社Technavioよると2020年のVRゲーム市場は2016年比で84%以上成長すると予測されています。市場調査分析では、この市場の主要な成長要因の1つとしてVR技術の認知度が高まっていることが挙げられています。
具体的な例として、ソニーの「PSVR」が有名で、 これからも確実にVR市場を牽引していくことになるでしょう。
「映画」
ゲームと並んでVRが活用されているのが映画業界です。VRゴーグルで映画を見ると、映画館の特等席で鑑賞しているような感覚で映画を鑑賞できます。
PSVRには「シネマティックモード」という映画鑑賞用のモードがあり、最大226インチ相当の大画面で迫力ある映像を楽しむことができます。DVDやBlue-rayだけではなく、Netflix、Hulu、Amazon Primeビデオ、YouTube、などの動画サービスも大画面で鑑賞出来るようになっています。
「広告」
最近になって、TwiiterやFacebookなどに360度映像の広告が流れているのを見たことがある人もいるのではないでしょうか。広告業界でもVRは活用され、高い効果を発揮しています。
サンフランシスコの動画メディア「#LYVE」の調査によると、広告動画の視聴完了率は通常のモバイル広告が20%であるのに対して、VR広告は80%にも達しています。このようにVRは高い広告効果を発揮しているため、今後はさらに活用が進んでいくでしょう。
「 旅行・観光」
VRで世界各地の観光地を簡単に疑似旅行することもできます。VRを使用することで文字や写真では伝わりにくい観光地の魅力を十分に伝えることができます
代表的な活用例として「Google Earth」があります。 Google Earth はVRに対応しているため、VRゴーグルでGoogle Earthを見ると世界中を素早く簡単に飛び回り、旅行を疑似体験することができます。
ARとは
ARは「Augmented Reality/オーグメンティドゥ・リアリティー」の略で、日本語では「拡張現実」と訳されます。実際に目の前に広がっている風景に様々な視覚情報を重ねて表示することで、現実世界を仮想的に拡張するという技術です。
VRとの違いは?
同様に視覚を利用しているVRとの違いは、「実際に目の前に広がっている現実世界に視覚的情報を表示して現実世界を拡張する」のか、「ゴーグルのディスプレイに映像を映して仮想的な現実を作り出す」のかという点です。前者がARで後者がVRである。
さらにARはVRと違い専用のゴーグルが必ずしも必要というわけではありません。スマホなどでも手軽に体験出来るのがARの特徴です。
現実世界が「AR」、非現実の世界が「VR」というように区別をすることも出来る。似ているように感じる人もいるだろうが、両者は全くの別物である。
AppleとGoogleはスマホ向けARに力を入れている
AppleとGoogleはスマートフォンを利用したARに力を入れています。Appleは「ARkit」Googleは「ARCore」というスマートフォンでARを実現するためのプラットホームを用意していて、ARを利用したアプリやサービスが開発しやすい環境が整っています。そのため、IOS、Androidの両方にARを活用したアプリが多数登場しています。代表的なアプリとして日本でも大流行した「ポケモンGO」があります。AR技術でポケモンが現実世界に存在しているように表示しています。
ARの代表的な活用事例
「Google Lens」
Google Lensはスマートフォンのカメラを向けた対象について調べて、情報をARで重ねて表示できる技術です。Android・Iphoneの両方で利用できます。
使い方は簡単で、写真を撮る必要はなく対象物にカメラを向けるだけで、様々な情報を表示できます。例えば、花や建物の名前を表示したり、文字を取り込んでコピーや翻訳したり、被写体の商品を検索して購入したりすることが可能です。
「IKEAカタログ」
AR機能を利用して実際のサイズのIKEAの家具を部屋に配置出来るのが「IKEAカタログ」です。
画面上に実物大の家具が表示されるので、部屋におけるサイズなのか、部屋の雰囲気に合うのか、どのような家具の配置にするのかなどを家にいながら確認することができます。I
IOS版「Yahoo! Map」
ヤフー株式会社が提供しているIOS版「Yahoo! MAP」にはARを活用したナビゲーションサポート機能「ARモード」が搭載されています。スマホのカメラで映した景色上にルートを示す矢印や看板などのナビゲーション情報を表示することで、目的地までの道のりを立体的に捉えることができます。
同様の機能が現在Google MAPでもテストされていて、近日中に実装されるかもしれません。
「Facebook 広告」
アメリカ限定ですが、FacebookがAR広告を導入しています。ユーザーはスマホでセルフィー撮影した自分の顔にサングラスを試着したり、リップクリームをバーチャルで塗ることができます。
試着した商品が気に入ればその場ですぐに購入することも可能になっています。
MRとは
MRは「Mixed Reality」の略で、日本語で「複合現実」と訳されます。現実世界と仮想世界を融合させていることから「複合現実」と呼ばれています。
ARとVRの上位互換版のような技術で現実世界に仮想世界を重ね合わせて表示して体験出来る技術です。仮想世界を現実世界に表示するという意味ではARと同様ですが、MRはさらに空間認識力を持っているため、CGで作られた仮想の物体を手で操作したり、ものを壁に投げて跳ね返らせることができます。
現実世界に仮想物体を表示するのがARで、その物体を実際に操作することまで可能なのがMRになります。
マイクロソフトのMRゴーグル「HoloLens」
スマホ以外でARを利用する方法として「ARゴーグル」がありますが、特に有名なのはマイクロソフトの「HoloLens」です。
HoloLensの特徴はPCやスマホ、外部センサーと接続させる必要がなく、単体で動作すること。ゴーグルにカメラやセンサーが搭載されていて、目の前の空間や手の動きを認識して、情報を表示したり、ジェスチャーで操作することができます。
現在は業務用として様々な会社やメーカーが利用しています。たとえば、日本航空が操縦やエンジン整備の訓練などに活用しています。他にも建設現場で、設計図を空間上に表示し、複数人と共有することで業務を効率化させることに活用されています。
その他のXR
SR
SRは「Substitutional Reality/サブスティテュートナル・リアリティ」の略で、日本語で「代替現実」と訳されます。
リアルタイムの現実世界の映像に過去の映像を重ねて映し出すことで、あたかも過去の出来事が目の前で起こっているかのように、あるいは存在しない人が目の前にいるかのような感覚を味わえる技術です。視覚だけではなく聴覚や嗅覚を加えることでさらに現実感が増すことができます。
実際に、2012年に理化学研究所がSRシステムでヘッドマウントディスプレイに映る映像を現在の映像から過去の映像に切り替えてリアルタイムの現実のように被験者に認識させる実験に成功しています。
このように現実を仮想世界に置き換えて現実だと認識させることを「代替現実(SR)技術」と呼びます。
AVR
AVRは「AVR(Augmented Virtual Reality/オーグメンテッド・ヴァーチャル・リアリティ)」の略で、日本語で「拡張VR」と呼ばれます。
現実の物や人や状況をリアルタイムでモデル化(データ化)してVR環境に統合することで、インタラクション(相互作用)を可能にする技術です。
Oculusのチーフサイエンティスト、マイケル・エイブラッシュ氏は、「視界の全てのピクセルを自由に操作し、バーチャルなものを現実へ、逆に現実のものをバーチャル空間へ、自由に行き来させる。そして単にものが見えたり消えたりするだけでなく、表面色や質感など、目に見えるすべてを自在に操れる」と、AVRについて説明しています。
VR AR MRはこれからどうなっていくのか
今後VRやARはさらに進化を続け、活用用途が拡大されるだけではなく、一人一台が当たり前のスマホのようなデバイスになると考えられています。
フェイスブック社のCEO、マーク・ザッカーバーグ氏は、「VRはソーシャル・プラットフォームになり、現実では遠くにいる人々も、VRでは同じ体験を共有できるというこれまでにないプラットホームになる」と主張しています。
将来的にはAR、VRの区別はなくなり、MRやAVRのように1つの概念として統合されていくでしょう。そして現在は大型のゴーグルやヘッドマウントディスプレイが必要ですが、最終的にはメガネ型やコンタクトレンズのような小型デバイスになると予想されています。